Physical Marching Lab

for safety marching band activities

マーチングバンドにおける傷害の実態【小学生編】

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 前回は、マーチングバンドにおける傷害の実態【大学生編】についてご紹介しました。

kinematicmarch.hatenablog.com

 傷害の多い体の部位やセクションごとの特徴がみられ、それぞれの要因や対策について考察を行っていきました。今回も引き続き傷害の実態に関するデータをご紹介しますが、前回とは対象者が異なります。

 

 背景として、日本におけるマーチングバンド活動には、幼稚園の鼓笛隊活動から一般社会人のマーチングバンド・ドラムコーまで様々なカテゴリーがあり、幅広い年齢層がマーチングに取り組んでいます。前回は対象が大学生ということで、身体的に成熟したメンバーで構成されるカテゴリーのデータをご紹介しました。

 しかし、身体的に発達段階である幼児や小学生などの実態が、まだ明らかではありません。発達段階の子どもは負荷をかけすぎると傷害を引き起こすリスクが高く、児童期特有の傷害も見られやすい傾向にあります。そんな子どもたちがマーチングに取り組むことによって、身体にどのような影響があるのかを明確にする必要があると考えました。

 

 そのような背景から、マーチング活動に取り組む小学生の傷害の実態について調査を行いました。調査の対象はマーチングバンドに所属する小学生205名とし、方法は質問紙法によるアンケート調査としました。

 

結果は以下の通りです。

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 全体の傷害経験数では、傷害経験ありが181名(88.3%)、傷害経験なしが24名(11.7%)となりました。

 大学生での調査における割合は、傷害経験ありが36.4%、傷害経験なしが63.6%だったため、小学生の方が傷害経験の割合が多いことが明らかになりました。

 セクション別ではカラーガード(100%)、バッテリー(97.0%)、ローブラス(96.6%)、ピット(92.3%)、ハイブラス(75.6%)の順に多い結果となりました。

 

 部位別の結果がこちら。

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 傷害発症部位別にみてみると、肩甲帯部が123例(23.3%)と最も多く、次いで足部が64例(12.1%)、腕部が62例(11.7%)の順でみられました。

 

 以上の結果を考察していきます。

 セクション別ではカラーガードが最も割合が多くなりましたが、対象者数に差があるため単純比較ができません。ただ、大学生のデータにおいてもカラーガードの傷害割合が最も多かったため、小学生においても傷害が発生しやすいことが考えられます。また、身体活動量が少ないピットも、不思議なことに割合が多くなっています。これは私の推測に過ぎませんが、過去に他パートで傷害を引き起こし、MMが困難になった児童もピットを担当している可能性が考えられ、そのことが傷害割合に影響していることが推察されます。

 部位別では肩甲帯部への傷害が最も多くなりましたが、管楽器においては楽器を顔の前で構える姿勢を保持することによって、肩甲帯部の筋活動量が増大し、肩こりに繋がっている可能性が考えられます。また、チューバやバッテリーは肩に直接負荷がかかっていることも原因ではないでしょうか。

 

 このように、小学生は大学生に比べて傷害が発生しやすく、傷害の多い部位の特徴にも違いがあることが明らかになりました。児童期におけるマーチングバンド活動では、身体面の負荷に留意しながら取り組む必要があることが示唆されます。今後は、傷害予防を踏まえた指導法について検討することが課題と考えられます。

 

 最後に、私の経験の話をひとつ。数年前、ある小学校マーチングバンドのショーを拝見する機会がありました。そのバンドはレベルがとても高く、小学生離れしたパフォーマンスに圧倒されました。

 しかし、そのパフォーマンスよりも気になったのは、「体の大きさに楽器のサイズが対応していない」という点です。例えば、22インチを越える大きさのベースドラムを保持して、姿勢が大きく崩れた状態で歩いている姿。また、レギュラーサイズのチューバを担いでベルの高さが下がらないように必死に構える姿など、厳しい状況の中でマーチする子どもたちの様子が散見されました。

 それぞれの団体に様々な事情があると思います。適した楽器を揃えたくても予算が無かったり、よりサウンドの質を高めるために大きな楽器が必要だったり…。使いたくないが、使わざるをえないというような事情も考えられるため、決してそういったバンドを責めるような意図はありません。

 

 ただ最も大切にするべきことは、子どもたちの身体を守ることだと思います。取り返しのつかないような傷害に繋がってしまっては本末転倒です。今回明らかになった傷害の実態から、身体への影響やリスクに関する問題意識や知見を広め、子どもたちが安全にマーチングを楽しめるようになることを願っています。

 

 次回は、先日ウェブ上で行ったマーチングに関するアンケートの調査結果について、お知らせできればと思います。とても興味深い回答が数多くありましたので、ご期待ください。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。