Physical Marching Lab

for safety marching band activities

マーチングバンドにおける傷害の実態【大学生編】

 

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 今回からは、研究で行った調査や実験のデータをもとに、様々な考察を行っていきたいと思います。

 

 以前、「スポーツ傷害」に関する記事を書きました。マーチングバンドの練習では反復練習が多く、長時間に渡って体を酷使することによってオーバーユースシンドロームを引き起こし、疼痛などの症状に繋がるというものです。

詳しくはコチラ↓

kinematicmarch.hatenablog.com

 

 今回は、マーチング競技者の傷害に関する実態を明らかにするため、過去に行った傷害調査のデータを紹介します。調査の対象はマーチングバンドに所属する大学生99名とし、方法は質問紙法によるアンケート調査としました。

(※対象者数が充分でないため、参考値としてご覧ください)

 

 結果は以下の通りです。

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 全体の傷害経験者数では、傷害経験ありが36名(36.4%)、傷害経験なしが63名(63.6%)となりました。

 セクション別で見ると、カラーガード(56.0%)、ブラス(34.2%)、バッテリー(28.0%)の順に多い結果となりました。ピットやドラムメジャーは運動量が少ないため、傷害の発生が少ないことが考えられます。

 

 次に、部位別の結果を見てみましょう。

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 傷害発症部位別に見てみると、腰臀部が15例(19.7%)と最も多く、次いで手部および膝部が10例(13.2%)、足部が9例(11.8%)の順でみられました。

 

 以上の結果を考察していきます。

 最も傷害経験の割合が多かったカラーガードは、下肢や手部の傷害発生が多くみられます。カラーガードは、他のセクションに比べて身体表現の幅が広く、跳躍などの動作によって下肢の靭帯や軟骨を痛めやすいことが考えられます。また、フラッグやライフルなど手具の扱いにおけるキャッチの衝撃やドロップなどによって、手部を痛めてしまうことも考えられます。

 このことから、身体面では特に下肢や手部のケアが必要となることが考えられます。また技術面では、手具の操作に関するトレーニングを適切に行いながら、動作に慣れていくことによって傷害を防止する必要があると示唆されます。 

 

 ブラス・バッテリーにおいては、腰臀部の傷害発生が最も多くなりました。これは楽器を保持した状態での姿勢やMMの動作において、腰への負担が大きいためと考えられます。特にローブラスやバッテリーは楽器の重量が大きいことによって、身体への影響が大きいことが考えられ、相応のケアが必要になることが示唆されます。

 楽器保持による身体への具体的な影響についても研究で明らかにしていますので、また詳細は後日紹介したいと思います。

 

 このようにマーチングバンド活動には傷害の実態があるため、プレイヤーが安全にマーチングができるように、取り組み方を工夫していく必要があると考えられます。

 練習メニューの構築やディレクションを行う指導者は、プレイヤーの体を守ることを第一に考えながら指導することも大切です。無理のない活動量を設定し、プレイヤーの身体的リスクを軽減する工夫について検討してみてはいかがでしょうか。

 プレイヤーは、傷害を防止するための準備(ストレッチ・トレーニングなど)を適切に行う必要があります。そして体を酷使した場合のケアや、痛みが生じた場合は必要に応じて医療機関への受診も視野に入れておきましょう。

 

 以上のように考察を行いましたが、本研究は特定の団体のみを対象に調査したものですので、あくまでも参考値として認識いただければと思います。今後、複数の団体を対象とした調査を行い、マーチングバンドの全体的な傾向を明らかにしていきたいと思います。

 

 次回は、”マーチングバンドにおける傷害の実態【小学生編】”です。今回の大学生のデータと比較し、発達段階におけるマーチングバンド活動の傷害の実態について検討していきます。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。