【日本のマーチング人口は?】マーチングバンド意識調査2020【回答者統計編】
さて、今回からは身体に関する話題から少し離れ、ウェブアンケートで行ったマーチングバンド意識調査の結果について考察していきます。
この調査を行った目的は、マーチング経験のある方々がどのようなモチベーションで取り組んでいるのかを明らかにし、今後のマーチングの普及発展に繋げることです。
みなさんが考えるマーチングの良さや課題を数値化することで明確にし、マーチングバンドのよりよい活動に生かすことができればと考えました。
調査の方法は、Googleフォームによるアンケート調査とし、SNS上で調査協力を呼びかけ、3日間(2020/4/19~2020/4/21)の期間で調査を行いました。合計で531名の回答が得られ、各質問項目の集計を行いました。
今回は調査で得られたデータの中から、回答者の性別や年代、活動地域などの統計結果をご紹介いたします。日本のマーチング界における実際の人口比率を証明するものではありませんが、傾向は見えてくるかもしれません。
まずは、性別についてです。
性別では、女性が63%(334名)、男性が37%(197名)となりました。
男性に比べ、女性の比率が高い結果となりました。日本におけるマーチングバンド活動は、吹奏楽活動の一環として行われているケースが多くあることから、吹奏楽活動の女性の比率が高いことが影響していると考えられます。
次に、年代別についてです。
年代別では、10代が47%(249名)、20代が42%(224名)、30代が7%(35名)、40代以上が4%(23名)となりました。10代および20代の、いわゆる若年層が多い結果となりました。マーチングは学校の部活動での活動が多く、加齢とともにマーチングから離れやすいことが関係していると考えられます。調査方法がウェブアンケートということも影響しているかもしれません。
次に、経験年数別について。
経験年数別では、3年が21%(112名)、4年が12%(62名)、6年が11%(57名)となりました。これは、学校教育制度における中学校および高等学校の在籍年数(3年)が関係していると考えられます。
続いて、パート別についてです。
パート別では、トランペットが14%(75名)、バリトン・ユーフォニアムが10%(55名)、チューバが10%(53名)、カラーガードが9%(47名)となりました。おおよそ、多くの団体で組まれている楽器編成数に近い数字になったのではないかと考えられます。管楽器は金管編成のみの団体も多いため、木管楽器の割合が低くなったと推察されます。
最後に、居住地域別について。
居住地域別では、関東地方が30%(162名)、九州地方が24%(128名)、関西地方が14%(76名)となりました。
比較の参考として、日本マーチングバンド協会の個人会員数(2018年)と、日本の地域別の人口(2010年)のデータを掲載しておきます。
個人会員数と比較すると、多少の誤差は見られますが、概ね近い比率であることがわかります。
実際の地域別人口と比較すると、関東地方は同じように30%程の比率で、近畿地方や中部地方は比率が少ない結果となりました。反対に九州地方や中国地方は、比率が高い結果となっています。これは、調査を行った私が九州地方在住であることと、中国地方での居住経験があることが関係していると考えられます。
以上のことから、日本のマーチング人口は女性の割合が高く、年代別では若年層、年数では3年が高いことが示唆されました。パート別では楽器編成数に準ずる数値となり、地域別ではマーチングバンド協会の個人会員数と同じような傾向を示し、実際の地域別人口とは異なる比率となりました。
今後も調査を重ね、人口推移などのデータも得られればと考えています。
今回の調査は様々な性別、年代、経験年数、パート、地域のデータを集めることができ、全体的な傾向を踏まえた分析を行うことに繋がりました。改めまして、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。
次回からは、各アンケート項目の回答結果についてご報告します。興味深い回答を数多くいただいていますので、お楽しみに!
マーチングバンドにおける傷害の実態【小学生編】
前回は、マーチングバンドにおける傷害の実態【大学生編】についてご紹介しました。
傷害の多い体の部位やセクションごとの特徴がみられ、それぞれの要因や対策について考察を行っていきました。今回も引き続き傷害の実態に関するデータをご紹介しますが、前回とは対象者が異なります。
背景として、日本におけるマーチングバンド活動には、幼稚園の鼓笛隊活動から一般社会人のマーチングバンド・ドラムコーまで様々なカテゴリーがあり、幅広い年齢層がマーチングに取り組んでいます。前回は対象が大学生ということで、身体的に成熟したメンバーで構成されるカテゴリーのデータをご紹介しました。
しかし、身体的に発達段階である幼児や小学生などの実態が、まだ明らかではありません。発達段階の子どもは負荷をかけすぎると傷害を引き起こすリスクが高く、児童期特有の傷害も見られやすい傾向にあります。そんな子どもたちがマーチングに取り組むことによって、身体にどのような影響があるのかを明確にする必要があると考えました。
そのような背景から、マーチング活動に取り組む小学生の傷害の実態について調査を行いました。調査の対象はマーチングバンドに所属する小学生205名とし、方法は質問紙法によるアンケート調査としました。
結果は以下の通りです。
全体の傷害経験数では、傷害経験ありが181名(88.3%)、傷害経験なしが24名(11.7%)となりました。
大学生での調査における割合は、傷害経験ありが36.4%、傷害経験なしが63.6%だったため、小学生の方が傷害経験の割合が多いことが明らかになりました。
セクション別ではカラーガード(100%)、バッテリー(97.0%)、ローブラス(96.6%)、ピット(92.3%)、ハイブラス(75.6%)の順に多い結果となりました。
部位別の結果がこちら。
傷害発症部位別にみてみると、肩甲帯部が123例(23.3%)と最も多く、次いで足部が64例(12.1%)、腕部が62例(11.7%)の順でみられました。
以上の結果を考察していきます。
セクション別ではカラーガードが最も割合が多くなりましたが、対象者数に差があるため単純比較ができません。ただ、大学生のデータにおいてもカラーガードの傷害割合が最も多かったため、小学生においても傷害が発生しやすいことが考えられます。また、身体活動量が少ないピットも、不思議なことに割合が多くなっています。これは私の推測に過ぎませんが、過去に他パートで傷害を引き起こし、MMが困難になった児童もピットを担当している可能性が考えられ、そのことが傷害割合に影響していることが推察されます。
部位別では肩甲帯部への傷害が最も多くなりましたが、管楽器においては楽器を顔の前で構える姿勢を保持することによって、肩甲帯部の筋活動量が増大し、肩こりに繋がっている可能性が考えられます。また、チューバやバッテリーは肩に直接負荷がかかっていることも原因ではないでしょうか。
このように、小学生は大学生に比べて傷害が発生しやすく、傷害の多い部位の特徴にも違いがあることが明らかになりました。児童期におけるマーチングバンド活動では、身体面の負荷に留意しながら取り組む必要があることが示唆されます。今後は、傷害予防を踏まえた指導法について検討することが課題と考えられます。
最後に、私の経験の話をひとつ。数年前、ある小学校マーチングバンドのショーを拝見する機会がありました。そのバンドはレベルがとても高く、小学生離れしたパフォーマンスに圧倒されました。
しかし、そのパフォーマンスよりも気になったのは、「体の大きさに楽器のサイズが対応していない」という点です。例えば、22インチを越える大きさのベースドラムを保持して、姿勢が大きく崩れた状態で歩いている姿。また、レギュラーサイズのチューバを担いでベルの高さが下がらないように必死に構える姿など、厳しい状況の中でマーチする子どもたちの様子が散見されました。
それぞれの団体に様々な事情があると思います。適した楽器を揃えたくても予算が無かったり、よりサウンドの質を高めるために大きな楽器が必要だったり…。使いたくないが、使わざるをえないというような事情も考えられるため、決してそういったバンドを責めるような意図はありません。
ただ最も大切にするべきことは、子どもたちの身体を守ることだと思います。取り返しのつかないような傷害に繋がってしまっては本末転倒です。今回明らかになった傷害の実態から、身体への影響やリスクに関する問題意識や知見を広め、子どもたちが安全にマーチングを楽しめるようになることを願っています。
次回は、先日ウェブ上で行ったマーチングに関するアンケートの調査結果について、お知らせできればと思います。とても興味深い回答が数多くありましたので、ご期待ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
マーチングバンドにおける傷害の実態【大学生編】
今回からは、研究で行った調査や実験のデータをもとに、様々な考察を行っていきたいと思います。
以前、「スポーツ傷害」に関する記事を書きました。マーチングバンドの練習では反復練習が多く、長時間に渡って体を酷使することによってオーバーユースシンドロームを引き起こし、疼痛などの症状に繋がるというものです。
詳しくはコチラ↓
今回は、マーチング競技者の傷害に関する実態を明らかにするため、過去に行った傷害調査のデータを紹介します。調査の対象はマーチングバンドに所属する大学生99名とし、方法は質問紙法によるアンケート調査としました。
(※対象者数が充分でないため、参考値としてご覧ください)
結果は以下の通りです。
全体の傷害経験者数では、傷害経験ありが36名(36.4%)、傷害経験なしが63名(63.6%)となりました。
セクション別で見ると、カラーガード(56.0%)、ブラス(34.2%)、バッテリー(28.0%)の順に多い結果となりました。ピットやドラムメジャーは運動量が少ないため、傷害の発生が少ないことが考えられます。
次に、部位別の結果を見てみましょう。
傷害発症部位別に見てみると、腰臀部が15例(19.7%)と最も多く、次いで手部および膝部が10例(13.2%)、足部が9例(11.8%)の順でみられました。
以上の結果を考察していきます。
最も傷害経験の割合が多かったカラーガードは、下肢や手部の傷害発生が多くみられます。カラーガードは、他のセクションに比べて身体表現の幅が広く、跳躍などの動作によって下肢の靭帯や軟骨を痛めやすいことが考えられます。また、フラッグやライフルなど手具の扱いにおけるキャッチの衝撃やドロップなどによって、手部を痛めてしまうことも考えられます。
このことから、身体面では特に下肢や手部のケアが必要となることが考えられます。また技術面では、手具の操作に関するトレーニングを適切に行いながら、動作に慣れていくことによって傷害を防止する必要があると示唆されます。
ブラス・バッテリーにおいては、腰臀部の傷害発生が最も多くなりました。これは楽器を保持した状態での姿勢やMMの動作において、腰への負担が大きいためと考えられます。特にローブラスやバッテリーは楽器の重量が大きいことによって、身体への影響が大きいことが考えられ、相応のケアが必要になることが示唆されます。
楽器保持による身体への具体的な影響についても研究で明らかにしていますので、また詳細は後日紹介したいと思います。
このようにマーチングバンド活動には傷害の実態があるため、プレイヤーが安全にマーチングができるように、取り組み方を工夫していく必要があると考えられます。
練習メニューの構築やディレクションを行う指導者は、プレイヤーの体を守ることを第一に考えながら指導することも大切です。無理のない活動量を設定し、プレイヤーの身体的リスクを軽減する工夫について検討してみてはいかがでしょうか。
プレイヤーは、傷害を防止するための準備(ストレッチ・トレーニングなど)を適切に行う必要があります。そして体を酷使した場合のケアや、痛みが生じた場合は必要に応じて医療機関への受診も視野に入れておきましょう。
以上のように考察を行いましたが、本研究は特定の団体のみを対象に調査したものですので、あくまでも参考値として認識いただければと思います。今後、複数の団体を対象とした調査を行い、マーチングバンドの全体的な傾向を明らかにしていきたいと思います。
次回は、”マーチングバンドにおける傷害の実態【小学生編】”です。今回の大学生のデータと比較し、発達段階におけるマーチングバンド活動の傷害の実態について検討していきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私の研究活動について
先日Twitterでこのサイトについてお知らせしたところ、想像以上に反響がありとても驚きました。多くの方に興味を持っていただき、とても嬉しく思います。ありがとうございます。
さて、およそ3年ぶりに記事を書くということで何を話題にしようか考えましたが、いきなり具体的なテーマをあげても背景が見えにくいなと感じたので、まず私がマーチングの研究をするに至った経緯や、これまで行ってきたことをまとめておこうと思います。
私は高校からマーチングを始め、すぐにマーチングの魅力にハマり、大学進学後も継続して取り組みました。大学ではMMリーダーをさせていただき、メンバーに技術的な指導をする立場となりました。私はそれまでの経験をもとに、ストレッチや筋力トレーニング、MMのスタイルなどを考え、練習メニューを組んでいました。
しかし、私はすぐにある悩みを抱えました。それは、「自分の指導には説得力がない」というものです。
私の頭の中で「このトレーニングをすれば技術がつく」「このスタイルがベスト」というものはあったのですが、それはあくまで私の経験に基づく主観であり、誰もが納得できるような客観的な根拠がなかったのです。マーチングにおけるフィジカル面について、きちんとした理論に基づくものが作れないものか、ずっと悩んでいました。
他のスポーツ競技に目を向けると、日々科学的な検証が進んでおり、次々に効率の良いトレーニング方法を取り入れて発展を続けています。年々ショーの中身が進化し、求められるレベルが高くなっているマーチングにおいても、同じことが必要ではないかという思いを強く持ちました。
そんな中、在学4年目に部の監督と体育学部の先生が「マーチングの研究をしないか」というので、私はすぐにその話に飛びつきました。内容は、「バイオメカニクス」と呼ばれる学問を使った、マーチングの身体面における研究をするというものでした。
「バイオメカニクス」とは、別名「生体力学」と呼ばれる学問で、生物の運動について身体構造をとらえながら、力が働いている部分や体の動き方を明らかにするものです。
詳しくはコチラ↓
スポーツとバイオメカニクス 〜オリンピックから“くしゃみ”まで|日本鍼灸師会のけんこう定期便|一般の方へ|社団法人 日本鍼灸師会
そのマーチングにおけるバイオメカニクス的研究への取り組みが私の研究活動の出発点となりました。
大学で行った実験は、
・重心動揺測定(大学生対象)
・姿勢解析(大学生対象)
・傷害調査(大学生対象)
・MM動作解析
の4つです。
その後大学院にて、
・傷害調査(小学生対象)
・意識調査(小学生対象)
・重心動揺測定(小学生対象)
・姿勢解析(小学生対象)
・運動強度測定(大学生対象)
・日常姿勢解析(大学生対象)
などの調査・実験を行いました。
大学では主に大学生を対象に研究を進め、大学院では小学生を対象として行いました。そうすることで、小学生と大学生のデータを比較し、発達段階ごとの課題を発見することも目的として、検証を行いました。
今後は、これらの検証結果や私なりの考察を主として、情報を発信できればと思っています。ただ、科学は完全ではありませんので、私の情報を全て信用する必要はありません。これらの研究にはまだまだ課題がありますし、必ずしも全ての方々に当てはまるものでは無いので、参考程度に読んでいただければと思います。
ご意見や質問など、お待ちしています。
マーチングにも「スポーツ傷害」の概念を
みなさんは「スポーツ傷害」というものをご存知でしょうか。捻挫や肉離れなど、一度に強い力が加わることによる生じるものを「スポーツ外傷」、特定の部位に繰り返し力が加わり、軟部組織が損傷するものを「スポーツ障害」と言いますが、これらの総称を「スポーツ傷害」と言います。
マーチングに取り組む中で、体のどこかに痛みを感じたことがある方も多いと思いますが、それらの多くはスポーツ傷害の中の「スポーツ障害」だと考えられます。スポーツ障害は別名「使いすぎ症候群(オーバーユースシンドローム)」と言われ、体を酷使することによって発生します。反復練習の多いマーチングでは、足部や足関節、腰臀部などに負荷がかかり続けることによって疲労がたまり、筋肉や関節など各部位に炎症が起き、オーバーユースに繋がることが考えられます。このことから、マーチングにおける長時間の反復練習は、スポーツ障害に繋がりやすいことが示唆されます。
だからと言って、マーチングにおける反復練習を否定することはできません。楽器演奏に加えて様々な動作を同時にこなすマーチングでは、それらの質を高めるため、どんなに器用な人でも反復練習が必要になります。また、反復練習はマーチングに限らずどんなスポーツでも必要なものであり、より高いレベルを求めている競技者にとっては当然のことでもあります。
そんな中でスポーツ障害を防止するためにまず大切なことは、「ストレッチ」です。近年の研究によって考案されているストレッチは大きく2つに分かれます。ひとつは「スタティックストレッチ」。これは静的ストレッチと呼ばれ、体を静止した状態で行うストレッチを指します。もうひとつは「ダイナミックストレッチ」。こちらは動的ストレッチと呼ばれ、体を動かしながら行うストレッチのことを指します。
スタティックストレッチについては、練習前の柔軟として取り組んでいる人も多いでしょう。しかし最近の先行研究では、「運動前のスタティックストレッチはパフォーマンスを下げる」という報告が数多く見られるようになってきました。静的ストレッチは筋肉の柔軟性を高め、可動域を広げる効果がありますが、筋肉が緩むことによって、ケガに繋がりやすくなることなどが原因として考えられるようです。
練習前のストレッチには、ダイナミックストレッチが推奨されています。ラジオ体操やサッカーでよく行われるブラジル体操などが例としてあげられますが、これらは体を温め、筋肉の活動を活性化させる効果があるため、傷害防止やウォームアップに繋がり、パフォーマンスの向上が期待できます。
そして練習後にはスタティックストレッチをすることが効果的です。先述のように静的ストレッチは筋肉の柔軟性を高めることに加え、筋肉に蓄積した老廃物(疲労物質)を排出し、疲れを溜めないようにする効果もあります。
練習後は片付けやミーティングなどに時間を割くことが多いと思いますが、体をケアし、コンディションを維持する意味でもストレッチの時間を作ることができると良いのではないでしょうか。
今回はストレッチについて書きましたが、それ以外にも練習のペース配分やマーチングに取り組むにあたっての体づくりなども、傷害を防止するために大切なことです。
マーチングバンドの世界は、発展を続けているからこそ「スポーツ傷害」に目を向け、より安全にマーチングを楽しみながら継続できるように考えていくことが今後必要になると考えられます。
運動学的視点から見たマーチングの現状と課題とは
まず、運動学的な視点から見たマーチングの課題について考えてみようと思います。
近年、様々な団体のショーを見ていると、特に動作のレベルや質に関して、以前よりもかなり高いものが要求されているように感じます。ドリルデザインやギミック、カラーガードのパフォーマンスなど、年を重ねるごとにそのアイデアは新しい物が生まれ、その難易度も上がっています。
DCIやWGIなど海外だけではなく、日本国内の各カテゴリーのマーチングにおいても発展が進んでおり、それらのパフォーマンスの質を高めるためには相応の身体的なトレーニングが必要になることが考えられます。
そんな中で現在、日本のマーチングでは音楽的な知識に比べ、MMやからだ作りなど運動的な面での知識が少なく、多くの団体で様々な問題が生じているように感じます。
例えば、「どんな歩き方(スタイル)がいいのだろう」「どのような筋トレをすれば良いのかわからない」といった疑問をよく耳にします。
これに対して、「あの団体の歩き方がかっこいいからやってみよう」「あの団体はこんな筋トレをやっているから取り入れてみよう」といった他を真似るケースがよくあると思います。
真似たり参考にすること自体は問題ではありませんが、「なぜその歩き方で歩くのか」「なぜその筋トレをするのか」といった本質的な部分を置き去りにして真似ているケースがあることが問題です。なぜなら、その本質的な部分が自分たちの団体事情に適していないものであれば、意義の薄いものになる恐れがあるからです。
一方で、MMなどの動作に関する指導が細かくされている団体も多いですが、指導者の経験や感覚、また根性論に頼った指導がなされている場合もあり、学術的に客観性のある知識が用いられていないということも問題点として挙げられます。
これらの問題はなぜ起こるのか。それは、先にも述べたように、マーチングの世界には運動的な知識が不足していることが原因ではないかと考えます。マーチングは音楽的領域から発展したこともあり、動作に関しては指導者が長い年月をかけて経験してきたこと等からトレーニング法が構築され、その方法が伝統的に続いているという側面も、団体によってはあるのではないでしょうか。
もちろん指導者の経験や感覚は指導に必要なものですが、それだけではなく、学術的な根拠のある方法論に沿った合理的な指導法を取り入れることで、より良い指導になるのではないかと私は考えます。
しかし現在、私がマーチングについて研究を進めている中で様々な先行研究を探しましたが、マーチングに関する先行研究はとても少なく、その中でも実験や分析、結果考察まで行き届いている研究はごく僅かです。マーチングは音楽的要素に加え運動的要素を併せ持つ「複合的分野」であることから、他の競技に比べ研究が困難であることは事実ですし、マーチング自体がまだまだマイナーな競技であることも影響しているでしょう。
マーチングをより良いものにしたり、より楽しむためにも、マーチングに関する専門的研究が今後進んでいくことが望まれます。
そんな現状から、私は運動学的な視点から様々な研究を行っています。今後このブログではマーチングに関する具体的なテーマをあげ、それぞれの課題の原因追求や解決のための方法について、研究で学んだことを含めて考察していきます。
研究の中で出た結果の詳細についてはすぐにお伝えできませんが、できる限りの情報を発信できればと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います!